1. 事案の概要(事実経過・請求内容)
本件は、特許権者であるG+ Communications, LLC(以下「G+社」)が、米国特許商標庁(USPTO)の特許審判審決委員会(PTAB)による当事者系レビュー(IPR2023-00171)の最終確定判決(Final Written Decision)を不服として提起した控訴審手続である。PTABは、サムスン電子(Samsung Electronics Co., Ltd.、以下「サムスン社」)の申し立てを受け、G+社が保有する米国特許第10,736,130号(以下「'130特許」)の請求項1〜5、7〜9、14、および20について、米国特許法第102条(新規性欠如/Anticipation)に基づき特許不可(unpatentable)と判断した。これに対しG+社がCAFCに控訴した。
2. 判決の主文
PTABの最終決定を支持(AFFIRMED)する。
3. 主な争点
- 争点1: 行政手続法(APA)違反の有無(手続的適正)
PTABが口頭審理(Oral Hearing)においてサムスン社が提示した「先行技術(Kwak特許)の図44は必ずしも櫛型構造(comb structure)を意味しない(〜may be...)」という主張に依拠して判断を行ったことが、事前に適切な通知および反論の機会を与えなかったものとして、行政手続法(5 U.S.C. § 706)違反に該当するか否か。 - 争点2: 新規性欠如(Anticipation)に関する実質的証拠(Substantial Evidence)の有無
先行技術(Kwak特許)が'130特許の請求項1d(特定の長さNの定義済みシーケンスをN個のサブキャリアにマッピングする構成)を開示しているとしたPTABの事実認定が、実質的証拠によって裏付けられているか否か。
4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)
(1) 争点1(行政手続法違反の有無)について:
CAFCは、G+社による「口頭審理でサムスン社が初めて提出した不意打ちの主張にPTABが依拠した」との主張を退けた(Dell Inc. v. Acceleron, LLC 判例の適用を否定)。
- 通知の充足性: 櫛型構造に関する論点はもともとG+社自身が提起したものであり、問題となった「may(〜し得る)」という文言自体が先行技術であるKwak特許の明細書中に明記されていた(Kwak col. 74 ll. 9–12)。また、サムスン社の口頭審理での主張は、IPR手続を通じて一貫して維持してきたポジション(Kwak特許の図44は櫛型構造を必須とするものではない)を補強・凝縮(elaborate)したに過ぎず、許容される(Chamberlain Group 判例参照)。
- 判決の依拠度: PTABは「may」という文言のみに基づいて結論を導いたわけではなく、サムスン側専門家の供述調書や図面の詳細な分析など、多角的な証拠に基づき判断しており、APA違反は認められない。さらに、G+社はPTABに対して追加書面(Surreply)の提出許可を求めるなどの救済措置を講じていなかった(Yeda Research 判例参照)。
(2) 争点2(新規性欠如・実質的証拠の有無)について:
CAFCは、PTABの新規性欠如認定に十分な実質的証拠が存在すると判示し、G+社の2つの反論を退けた。
- 「may」の解釈の一貫性: G+社は「Kwak特許内の『may』という表現は明細書全体で一貫して解釈されるべきであり、他の構成要素で『may』が構成開示とみなされた以上、図44も同様に扱われるべき」と主張した。しかし、CAFCは「先行技術が特定の動作モードや一部の実施形態においてのみ請求項の構成を備えている場合であっても、当該請求項の新規性を否定するに十分である」(ParkerVision, Inc. v. Qualcomm Inc.)とする原則を再確認し、G+社の主張を退けた。
- 構成要件1dの開示: PTABは、サムスン側専門家の「Kwak特許の図44には、櫛型構造で不可欠となる領域(DMRS等)を示す陰影(shading)が存在しない」という詳細な解釈証言を信用した。専門家による詳細な立証は、新規性欠如を認定する十分な「実質的証拠」となる(Acoustic Tech. 判例参照)。
5. 実務上・判例上の法的なポイント
- 口頭審理における主張の深化とAPA違反の境界線:
当事者が手続内で既に争点化されている事項について、口頭審理で論理を研ぎ澄ませたり補強(elaborate)したりする行為はAPA違反(不意打ち)には当たらないことが改めて確認された。対立当事者としては、口頭審理で新たなニュアンスが出された場合、その場で異議を唱えるか、審理後に追加書面(surreply)の提出許可を申請する等の手続的記録を残すことが実務上極めて重要である。 - 先行技術における択一的・選択的記載(“may”)と新規性否定の規範:
先行技術文献においてある構成が「〜し得る(may)」として選択的・選択肢的に記載されている場合、その文献が「常にその構成を採用するわけではない(一部の実施形態でしか採用しない)」としても、特許請求範囲の構成を充足する態様が存在する以上、新規性(Anticipation)は否定されるというParkerVision判例の規範が再確認された。特許権者側が「先行技術は特定の限定構造(本件では櫛型構造)を前提としているため無効理由にならない」と主張する際は、先行技術がその構造を「必須(mandatory)」としていることまで立証しなければ崩すことは困難である。
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