1. 事案の概要(事実経過・請求内容)
Maxeon Solar PTE. Ltd.(被控訴人・特許権者、以下「Maxeon」)が提起した特許侵害訴訟に対抗し、Canadian Solar, Inc.(控訴人、以下「CSI」)はMaxeonの保有する米国特許第8,222,516号(以下「'516特許」)について特許審判部(PTAB)に対し当事者系レビュー(IPR: Inter Partes Review)を申し立てた(IPR2024-01039)。
PTABは最終書面決定(Final Written Decision)において、'516特許の請求項12について特許無効(unpatentable)である旨の証明がなされていないと判断した。CSIはこれを不服として連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)に控訴した。
控訴係属中、MaxeonはCSIに対し侵害に関する「一方的不提訴誓約(unilateral covenant not to sue)」を供与したことを理由として、本件控訴の係争性喪失(mootness)による却下(dismissal)を申し立てた。CSIは控訴却下自体には異議を唱えなかったものの、PTAB決定の破棄(vacatur)を求めたのに対し、Maxeonは破棄に反対した。
2. 判決の主文
各申立てを以下の限度で認容する。
- 本件控訴を係争性喪失(moot)により却下(dismiss)する。
- '516特許の請求項12に関するPTABの最終書面決定を破棄(vacate)する。
- 訴訟費用は各自の負担とする。
3. 主な争点
- 争点1: 不提訴誓約(Covenant Not to Sue)による控訴審の係争性喪失(Mootness)の成否
- 争点2: 原審勝訴当事者の一方的行為により係争性が失われた場合における原決定の破棄(Vacatur)の要否およびその範囲
4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)
(1) 係争性喪失(Mootness)および控訴却下について
MaxeonによるCSIに対する一方的不提訴誓約の供与により、両当事者間における具体的な事件・争訟性(Case or Controversy)は消滅した。したがって、本件控訴は係争性を喪失(moot)しており、却下(dismiss)を免れない。
(2) PTAB決定の破棄(Vacatur)について
合衆国最高裁判所の確立した判例(Arizonans for Official English v. Arizona, 520 U.S. 43, 71–72 (1997) 等)に基づき、「原審で勝訴した当事者(the party who prevailed before the originating tribunal)の一方的な作為によって係争性が失われた場合、原決定の破棄(vacatur)が適切である(Vacatur is in order)」という法理が適用される。
本件においてCSIの控訴が係争性を喪失したのは、被控訴人であるMaxeonの一方的な不提訴誓約によるものである。したがって、敗訴当事者(CSI)の不服申立権が奪われた結果を是正するため、請求項12に関するPTABの最終書面決定は破棄(vacate)されなければならない。
なお、裁判所は、PTABに対し請求項12に係るIPR申立自体を却下するよう命じるまでの措置は不要であると判断した(MemoryWeb, LLC v. Samsung Elecs. Co., 2025 WL 3494918 (Fed. Cir. Dec. 5, 2025) 参照)。
5. 実務上・判例上の法的なポイント
- 勝訴当事者による係争性作出とVacatur(Munsingwear法理):
特許権者がIPR等で有利な判断を得た後、控訴審判決による破棄・自滅リスクを回避するために一方的不提訴誓約を行って事件をmootにした場合、連邦最高裁のMunsingwear法理/Arizonans for Official English法理に基づき、原審判断(PTABの最終書面決定)は破棄(vacate)される。これにより、特許権者は下級審で得た有利な判断の先例的・既判力的な効力を温存することはできない。 - 知財紛争実務における防御側(被疑侵害者)の留意点:
特許侵害訴訟およびIPRにおいて、特許権者から一方的不提訴誓約が出されて控訴却下が申し立てられた場合、被疑侵害者側は単に控訴却下に同意するだけでなく、PTABの不利な判断が将来の別訴等で争点効(issue preclusion)等として援用されるのを防ぐため、必ず決定の破棄(vacatur)を併せて申し立てるべき実務プラクティスが再確認された。
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