【CAFC / 2026年07月21日】No. 2025-1053 - KEYSIGHT TECHNOLOGIES, INC. v. CENTRIPETAL NETWORKS, LLC(IPR申立書における具体的無効主張の欠如とPTABの最終決定の妥当性)

1. 事案の概要(事実経過・請求内容)

本件は、Keysight Technologies, Inc.(以下「Keysight」)が、Centripetal Networks, LLC(以下「Centripetal」)の所有する米国特許第11,012,474号(以下「'474特許」)に対し、米国特許商標庁(USPTO)の特許審判審理委員会(PTAB)へ当事者系レビュー(IPR)を申し立てた事案の控訴審である。

'474特許は「パケットセキュリティゲートウェイ」を用いた保護ネットワークに関する発明である。Keysightは、先行技術文献(Law文献およびGolnabi文献等)の組み合わせに基づき、'474特許の全クレームが自明(Obviousness)であり無効であると主張してIPRを申し立てた。

しかし、KeysightのIPR申立書(Petition)において、クレーム6, 14, 22, 30, 33(以下「本件対象クレーム」)については、見出し(Header)およびクレーム対照表(Chart)上で無効対象として掲出されていたものの、申立書本文および専門家宣誓書において、各クレーム構成要件がどのように先行技術によって提示されているかという具体的な対比分析や論述(elemental analysis)が一切含まれていなかった。

PTABはSAS Institute Inc. v. Iancu判決に従い全クレームについてIPRを開始(Institution Decision)し、開始決定時には「先行技術の組み合わせがクレーム発明を開示していることが十分に示されている」と仮記述していた。しかし、口頭審理を経て出された最終書面決定(Final Written Decision)において、PTABは本件対象クレームについて、Keysightが申立書で具体的な不特許理由を立証する義務(Burden of proof)を果たさなかったと判断し、これらのクレームの有効性を維持(非特許性の主張を排斥)した。Keysightはこの判断を不服としてCAFCに控訴した。

2. 判決の主文

原審(PTAB)の最終書面決定を維持(Affirmed)する。

3. 主な争点

  • 争点1: IPR申立書において個別の構成要件分析・論述を欠くクレームについて、PTABが不特許性を認めなかった判断は、裁量権の濫用(Abuse of Discretion)に当たるか。
  • 争点2: 開始決定(Institution Decision)で不特許の蓋然性を認めつつ、最終書面決定(Final Written Decision)で異なる結論を出したこと、および実質的に同様の構成要件を持つ他クレームを無効としながら本件対象クレームを維持したPTABの決定は、行政手続法上の「恣意的かつ不当(Arbitrary and Capricious)」な判断に当たるか。

4. 裁判所の判断ロジック(判示の要旨)

CAFC(Lourié判事執筆)は、PTABの判断に裁量権の濫用も手続き上の違法も認められないとして、Keysightの控訴を退けた。

(1) 争点1について:申立書における立証責任と特定性(35 U.S.C. § 312(a)(3)および37 C.F.R. § 42.104(b)(4)の適用)

米国特許法第312条(a)(3)および関連規則(37 C.F.R. § 42.104(b)(4))に基づき、IPR申立人は申立書において、挑戦する各クレーム、不特許理由の根拠、およびそれを裏付ける証拠を「書面により具体的な特定性をもって(with particularity)」示さなければならない。

Keysightは他のクレームについては詳細な対比・分析を展開していたのに対し、本件対象クレームについては見出しと表にクレーム番号を記載したのみで、具体的な分析を完全に欠いていた。口頭審理等で事後的に補強論述を試みたとしても、申立書自体で具体的理由を提示しなかった以上、PTABが不特許性の証明不足と結論付けたことは裁量権の濫用(abuse of discretion)には当たらない。

裁判所は「申立人は曖昧・抽象的・迂回的な申立書に依拠しておきながら、その意図を理解しなかったとして後からPTABを責めることはできない。明確な主張を展開するのはあくまで申立人の責任である」(Netflix, Inc. v. DivX, LLC)および「裁判官は記録や書面の中に埋もれたトリュフを探す豚ではない」(Pipes v. United States)という判例を引用し、申立人の不備を裁判所やPTABが補完する義務はないと判示の要旨をまとめた。

(2) 争点2について:開始決定と最終決定の不一致および他クレームとの不均衡に関する検討

第一に、PTABは開始決定(Institution Decision)における暫定的な判断に拘束されない(Trivascular, Inc. v. Samuels)。記録がさらに展開・精査された結果、当初の感触が誤っていたと確信した場合、PTABが実体判断を変更することは法的手続き上適正であり、恣意的とはいえない。

第二に、実質的に同一の制限事項(limitation)を含む他のクレームが無効とされたにもかかわらず、申立書で論述を怠ったことのみを理由に本件対象クレームが維持されたという不均衡について、CAFCは次のように判示した。一見すると自明で無効に思えるクレームが存続すること("The ghost in the room here whispers that we are allowing plainly unpatentable claims to continue to live on.")になるとしても、PTABは審判手続の主張水準を設定・維持する権限を有している。実体的な無効性の有無以前に、申立人が申立書において主張・立証責任を果たさなかったこと自体に起因する結果であり、行政手続法(5 U.S.C. § 706(2)(A))上の「恣意的・不当」な判断には該当しない。

5. 実務上・判例上の法的なポイント

本判決は、IPR手続における申立書(Petition)の記載の精密性と立証責任の厳格さを改めて強調した重要な実務上の教訓を含んでいる。

  • IPR申立書における「網羅的・個別的論述」の厳格な要求:
    チャレンジするすべてのクレームについて、各構成要件(element)と先行技術の対比を明確かつ個別に申立書内に記載しなければならない。表や見出しへの記載、あるいは「従属クレームであり親クレームと同様」といった安易な要約・省略は、申立却下または最終決定での不利益(主張の放棄/Waiverとみなされるリスク)に直結する。
  • SAS判決後の「全件開始ルール」と最終決定のギャップ:
    SAS Institute判決以降、PTABは申立てられたクレームの一部のみを開始拒絶することができず、「全件開始か全件却下か」の二者択一となった。このため、申立書で主張が不十分なクレームであっても開始決定段階では巻き込まれて開始されることがあるが、「開始されたこと」が「申立書の不備が補正されたこと」を意味するわけではない。最終決定(FWD)段階で立証不十分として切り捨てられるリスクがある。
  • 口頭審理や反論書(Reply)での追完の不可:
    申立書(Petition)に記載されていない不特許理由や対比分析を、特許権者の答弁書への反論(Reply)や口頭審理(Oral Hearing)で後から補強・追完することは原則として認められない。実務担当者は、申立書提出の段階で攻撃防御を完璧に完結させておく必要がある。

0 件のコメント:

コメントを投稿

【CAFC / 2026年09月11日】No. 2025-1596 - PTABの当事者系レビュー(IPR)決定に対する控訴審判決(連邦巡回区控訴裁判所規則36条に基づく原決定維持)

1. 事案の概要(事実経過・請求内容) 本件は、特許権者である控訴人(Appellant:Wipqtus, Inc.)が、被控訴人(Appellee:Samsung Electronics Co., Ltd.)により申立てられた米国特許商標庁(USPTO)特許審判部(PTAB)...